桜としろほん 030401

桜の花が咲いている。
誰にでも桜の花が脳裏に焼きついた思い出が
あるのだろうか。
ピカピカの小学一年生。黒紋付羽織を着た母に手を
引かれて、小学校の門をくぐった。
あの時の校門の桜の花が、私には強烈な印象がある。
その後二度と、母が学校という場所へ来ることはなかった。
生活に追われ、それどころではなかったのだろう。


三年生の時音楽の授業があった。ハーモニカ、しろほん、カスタネット
タンバリン。いろんな楽器を弾いた。
「しろほんを早く用意してください。」先生が言った。
そのしろほんを買ってととても母に言えなかった。
給食費さえ払えない状況だったから。
音楽の時間が嫌だった。
「まだしろほん持ってこないの?」
先生に言われるのがいやでいやで。
いよいよ総合練習の日がきた。その日はなにがなんでも
しろほんが必要だった。こころが重かった。
朝起きた。枕もとに 青いビニールの袋に入ったしろほん。
嬉しかったなあ。ほんとに嬉しかった。
「おかあちゃん ありがとう」と恥ずかしそうに声をかけた。
母はきっとどこかから聞いていたんだろう。
そして買ってやれないことにこころを傷めていたんだろう。
それからもずっと私はものをあまり欲しがらない子になっていた。
桜が咲く頃、いつも校門の桜と青いしろほんの母をおもいだす。
それはいのちある限り、毎年続くことだろう。
ありがとうございます