森 信三 運命をひらく 365の金言 2 「欲を捨てる」

欲を捨てる

人間が真に欲を捨てるということは、
意気地なしになるどころか、それこそ真に
自己が確立することであります。否、さらにそれによって、
天下幾十万の人々の心の中まで伺い知ろうという、
大欲に転ずることであります。

 ですから人間は、自ら積極的に欲を捨てるということは、
意気地なしになるどころか、わが一身の欲を打ち越えて、
天下を相手とする大欲に転ずることとも言えるのです。
しかるに世間多くの人々は、欲を捨てるということを、
単に言葉だけで考えているために、捨欲の背後に大欲の出現
しつつあることに気付かないのです。そしてこのような背後の
大欲がみえないために、欲を捨てるとは、意気地なしに
なることくらいにしか考えられないのです。

 ところが人間が真に欲を捨てるということは、実は自己を
打ち越えた大欲の立場にたつということです。
すなわち自分一身の欲を満足させるのではなくて、
天下の人々の欲を思いやり、できることなら、
その人々の欲をも満たしてやろうということであります。