森 信三 運命をひらく 365の金言 49 「人間の真のねうち」

人間の真のねうち

 そもそもわれわれ人間の真のねうちは、結局はその人の心の清らかさのほかないともいえましょう。いかに多くの富を蓄えても、またいかに大事業をしたとしても、さらにまたいかなる高位高官に昇ろうとも、人間の最後のねうちは、結局は心一つの問題といってよいでしょう。すなわち、「心の清らかさ」という一事のほかないわけであります。

 人間も若い間は、このようなことはなかなかわかりかねることでありますが、しかし年をとるとともに、次第にこの辺の道理が、単なる道理としてではなくて、生命の深い実感として、感じられるようになるものであります。実際人間の真価は、その人の肉体がこの地上からなくなってしまわないことには、本当のことは分からぬともいえましょう。この世に生きている間のことは、その人の社会的位置とか、また財産名誉などというものによって、その真価が遮られておりますが、ひとたびその人がこの世を去ってしまえば、後に残るのは、ただその人の真実心のみであります。すなわちまたその人の心の清らかさのほかないわけであります。