短歌 抄
父と母の相容れずして訣れたる両極の性やわが血に伝わる
これの世の憂さも辛さもことごとにこのわが性を矯めなむためか
たまきはる生命のきわの枕辺になかりし悔ひやとわ忘らえじ
貧しきにわれを育てて賜びにけり縁といふも足らずしおもほゆ
わがいのち生きなむ限り養父母のいのち寂しく思いつつ生くべし
たらちねの親はもあらぬ古里に還り来りて佇むわれは
親しなきふるさとの野にわが立てば冬風すゞろ身に沁みにけり
春風は背に吹けれど故郷を遠望むわれや涙ぐみおり
過ぎにける夢とかやいはむわがいのち死ぬべくありし幾そたびぞも
逝くものはなべてかなしも冬川の水の流れはとどまらなくに
悲しみの極みといふもなほ足りぬいのちの果てにみほとけに逢う