森 信三 運命をひらく 365の金言 20 「天地は最上の書籍」

天地は最上の書籍

 天地は最上の書籍である。
それは人間の書いた如何なる書物よりも
勝れている。
学者の中にも、天地を読もうとする学者と、
書物を読もうとする学者とがある。
そして、天地を読む学者のみが真の
学者であり、かかる学者にして、初めて
書物を書く資格がある。
書物だけを読む学者の書いた本は、
読めたものではない。
諸君らの勉強も、ここに心せねばならぬ。
常に天地を読む人の書物を読むのでなければ、
本を読んでも大した効はない。

 天地を写した書物というものは、
箇条書きにして暗記するわけにゆかぬ。
そこで読書に際しては、書物のリズムと
自己のリズムとを、合わせつつ読むのでなくては
ならぬ。
こうした読み方をした後は、良いお茶を
飲んだ後のような味わいが残る。
しかし、かかる書物は世間に多くはない故、
それを見つけることが大事である。
必ずしも専門家のものたるを要しない。
その人が天地の心を読んでいるか否かが
問題である。
書を読むに当たっては、純心な心をもって、
書物の内側に入り込んで行かねばならぬ。
批判は読み了った後のことで、批判しながら
読むというのは第一義の読み方ではない。