森信三先生の言葉 14~不幸というものは一面からは・・

 不幸というものは一面からは確かに損失といってよいわけですが、しかも天は至公至平でありまして、こちらで損失を起こしたら、他の方面で必ずその償いをしてくれるものであります。しかしながらこの点は、これを信ずる者にのみわかる事柄でありまして、その為に信じられない者は、たとえ償われていても、その償われていることがわからないのであります。

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 しかしながら、このさい注意を要する点は、この失われたものに対して新たに与えられるものは、その性質が、失われたものと、かならずしも同じ種類のものではないという事です。否、多くの場合それはまったく別種のものであり、またその与えられる方向も、全然違った方面において与えられるのが常であります。そしてこの点が、ただ失われた物のみに気をとられている人には、容易に気づきにくいゆえんであります。

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 人生というものは、予定どおりに行くことが、必ずしも最上とは限らぬということです。すなわち予定通りの人生というものは、とかく平板単調なものでありまして、むしろ予定の破れて行く悲しみに逢いながら、しかもそこに新たなる、より深い償いを見出して行く人生こそ、真に奥行があり、深みのある人生ということができましょう。
 また古来偉人といわれるような人々の辿った足跡は、このことの真理性を実証して余りあると言えましょう。実際わたくしたちは、自己にとって最大の期待の破れたような場合、そうした悲しみのどん底において深い新たなる光明に接するのであります。