思いを強く ~高木壮一郎さまの書簡集より~ 010625

思 い を 強 く
                 岩田克也(エルモ社社長)
暗くて厳しい昨今ですが、偶々、福井達雨先生に出会い、一服の
清涼剤をいただいた一刻を過しました。先生は学生時代に知能障
害児の世話をするのが天職だと確信し、以来、47年に亘って、
彼等と生活を共にしてきた止揚学園(滋賀県能登川町)の創設者
です。
おもしろい話の中で、先生は、


「100人もの子供の食事を作るのは大変で、調理器を入れたこ
 とがあります。機械ですから、野菜も素早くきれいに切ってく
 れますし、人手もずいぶん助かりました。しかし、その頃から
 情緒不安を起こす子が増えました。はじめは原因がよく分から
 なかったのですが、ひょっとすると調理器に原因があるかと気
 づき、人手に戻したところぴたっと無くなりました。そこで、
 風呂も薪で焚くようにしてみたのです。一時間で焚けた風呂が
 七時間も掛かるようになりましたが、温もりが違うのでしょう。
 夜尿症の子が本当に少なくなりました。勿論、学園も木造のぼ
 ろ校舎です。貴方には悪いが、人と人の間に機械が入ると人間
 は駄目になるようです。」
と耳の痛い話をされました。
そのとき、私は昔読んだ現代物理学者カプラの話を思い浮かべま
した。あらゆる物質は究極の原子からなり、原子は原子核とその
周囲を廻る電子で出来ていますが、カプラが観察していますと、
電子は粒子となったり、エネルギーの流れとなったり、時々変化
していることを発見しました。しかし、その変化は周期的でも確
率的でもなく、原因が分かりません。どうも観察者との関係の中
で、その変化が起きているのでないか、そんな仮説を彼は持って
いるという話です。
私どもは中小メーカーです。それだけに、常にユーザーの満足を
第一にと心掛けていますが、益々、使う人への心遣いを込めた製
品を出さねばと強く思った次第です。
   豊作田 案山子は 薄き胸を張る   和也