初めてのアルバイト 030605

小学4年生。だから今から45年前。
初めてアルバイトをした。
中学生の頃、クラブはバスケットと陸上と卓球を
かけもちでやった。
バスケットをやったおかげか、高校生になって
背がグングン伸びて、今の180センチくらいになった。
中学生までの背は小さくて、並ぶと40人くらいの
クラスでいつも前から10番目までだった。


父親代わりのたった一人の兄が自転車を教えてくれた。
近くの中学校の校庭で、毎日毎日、足をすりむきながら
練習した。やっと乗れるようになった。
なんせその練習の自転車は昔の魚やさんや八百屋さんが
乗るような大きな自転車で、足がペタルから離れるくらいだった。
兄は一緒につきあってくれた。乗れた時は
一緒に本当に喜んでくれた。
厳しい兄だ。教えてくれなくてもいいのに、勉強も
教えた。漢字ができないと、ホッペにビンタがとんだ。
みかん箱に布切れをかぶせた机。
それがマイ勉強机だった。
自転車が乗れるようになったからアルバイトができる。
本当は収入がいい新聞配達をしたかったが、
背がちいさくて、身体も小さいため、新聞を抱えきれず
最初は乳酸菌飲料の自転車配達をした。
歩いて一分のM薬局が販売店。
一週間ほどご主人がついてまわってくれて、
お客様の家を覚えた。
いよいよ今日から一人で配達の日。
朝から雨が降っていた。
ご主人に手伝ってもらって、自転車の荷台に「雪印ローリー」を
縛りつける。カッパを羽織って出発。
なんだか不安だった。ヨロヨロしながら100メートルくらい。
そして「ガチャーん」。
「どうしよう 怒られる—」
すこしでも家計の足しになるようにと始めたバイトだった。
月給700円。割ったローリーはその何倍。
ベソを書きながら薬局へもどった。
「怒られる—」
ガラガラと戸を開けてご主人に泣きながら言った。
「倒しちゃった—」
ご主人の掛けてくれた言葉。
「まーちゃん  大丈夫か? ケガ なかったか?」
ほんとにビックリした。
叱られるとばっかり思っていたから。
最初の給料は 差し引かれる」こともなくいただいた。
母に給料の一部を恥ずかしそうにわたしたことを覚えている。
最初のアルバイト。
僕はこのご主人に会うために アルバイトを始めたように思っている。