「心をおだやかにしていれば、独りでに
楽しいですから。それだけのことです。」
中村 元(はじめ) 「対談集Ⅲ」
中日新聞社 1999年10月24日 今週のことばから
常盤井 鸞猷(ときわいらんゆう)
仏教学の泰斗、中村元博士がなくなられた。
ひろく思想界の損失ははかり知れない。
氏の温顔は、テレビでもしばしば接することができたが、
それは仏教がそのまま輝き出た顔であった。
経文の「和顔愛語(いつもニコニコ、ことばやさしく)」が
体現されていた。二十数年かけた労作「仏教語大辞典」の
原稿を出版社が紛失しても一言もとがめず、さらに八年を
費やして十三万枚の原稿を書き残したことはよく知られていよう。
仏教は「和顔愛語」を布施の行と説くが、行として
努めずとも、仏法者の徳として自然にそなわる
「独りでに楽しい」生き方があることを、氏は身体で
示してくださったのである。
(いきいき いのちから)