致知出版社の「一日一話 読めば心が熱くなる・・」 その8~偉い人間にならなくていい、立派な人間になれ

「偉い人間にならなくていい、立派な人間になれ」

ガッツ石松 元WBC世界ライト級チャンピオン

俺だって本当は高校に行きたかったけど、
そんな余裕がある家庭じゃないからね。
じゃあ、何も持たない自分が這い上がるには
どうすればいいか。
体一つで戦えるボクシングしかないと思った。

とりあえす近所の人の紹介で東京の会社に
就職しました。入社してすぐ、会社のみんなで
元フライ&バンタム級で世界チャンピオンの
ファイティング原田さんの関亜中継を見ていた。
その時、俺は社長さんに「俺もボクサーに
なりたいから、ボクシングジムに通わせてください」と
申し出た。すると社長さんは、「お前みたいな人間が、
あんな偉い人間になれるわけがない」と言ったね。

まだ十五だよ。ショックだったね。ああ、東京も
田舎も一緒だ。俺みたいなやつにチャンスはないんだ、
と思って、すぐに会社を辞めて田舎に戻った。

村の人たちに見つかると「あそこの息子、
もう仕事やめて帰ってきた」と噂されるから、
真夜中にひっそりと帰って、昼間、誰にも
見られないようにふるさとを歩いたんだ。
山、川、田んぼ。畑・・・。
ふるさとの自然に抱かれているうち、
「よし、俺はやっぱり東京へ行く」という
思いが湧いてきた。

もう一回上京する日、おふくろはいつも通り
朝早くに土方仕事へ出て行った。帰ってきた数日間も、
忙しくてろくに話もできなかったから、駅に向かう
途中に仕事場に立ち寄ってみたんだね。

「もう一回東京へ行ってくるぞ」と言うと、
おふくろは泥だらけの手で前掛けのポケットを
ゴソゴソやって、一枚の千円札をくれたんだ。
俺がいつも悪さばっかりしていたから、
「サツ(札)はサツでも、警察ノサツは使えねえぞ」
と言ってね。
そしてハラハラと涙をこぼしたかと思うと、
「偉い人間になんかならなくていい、
立派な人間になれ」
と言った。うちのおふくろさんは学歴はないけど、
やっぱり苦労を重ねてきた人だから言葉に力が
あったうおね。すっと心に沁みて、それはいまも忘れない。

結局、その時もらった泥のついた千円札は
ずっと使えなくて、いまでも大切に持っていますよ。