8月22日の BRICS 首脳会議で宣言される「何か」はドル支配の世界を緩慢に変えるだろうか
ダーバン合意
8月に、南アフリカのヨハネスブルグで、ブラジル、ロシア、インド、中国が中心である BRICS の大きな首脳会議があります。
そこにおいて、「ダーバン合意」というものが宣言される可能性が高くなっています。
その内容の具体的なところは、事前にわかるものではないですが、多くの専門家たちが、
「金(ゴールド)などに基づいた BRICS 共通通貨の宣言」
をするのではないかと述べています。
実際、ロシアの国営メディア RTは、7月に「 BRICSが、金を裏付けとした通貨を創設することを確認した」と報じていたことがアメリカでも伝えられています。以下は報道からの抜粋です。
ロシア、BRICSが金を裏付けとした通貨を創設することを確認
kitco.com 2023/07/07
ロシア国営 RT によると、ロシア政府は BRICS 諸国としても知られるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが金(ゴールド)を裏付けとした新たな取引通貨を導入することを確認したと発表した。
公式発表は 8月に南アフリカで開催される BRICS 首脳会議で行われる予定だ。
最近のニュースでは、世界経済で進行中の「脱ドル化傾向」に新たな勢いを加えている。2022年半ば以降、世界中の中央銀行は準備金を米ドルから分散することを目的として、歴史的なペースで金を購入している。
多くのアナリストたちにとって、金に裏付けされた通貨は、このプロセスにおける次の進化だ。多くのアナリストたちは、中国による最近の金購入は人民元に国際的な信頼をもたらす試みであると見ている。
同時に、米国政府がウクライナ侵攻のためにロシアに対して米ドルを兵器化したことで、ロシアと同盟を結んでいる一部の国の間に地政学的な不確実性が生じた。
金に裏付けされた BRICS 通貨の見通しは、金に大きな支援となるが、一部のアナリストは、その影響が市場に現れるまでには時間がかかると予想している。
デグサ社の首席エコノミストであるトルステン・ポライト氏は、今回の発表は正しい方向への一歩だが、現実になるまでにはまだ長い道のりがあると述べた。
同氏は、「一見すると、金に裏付けられた新たな取引単位は良いお金のように聞こえるが、何よりもまず米ドルの覇権に対する大きな挑戦となる可能性がある」と述べた。
今度の BRICS の会合では、ゴールド(あるいは他の何らかの実物商品)に裏打ちされた「 BRICS 共通の通貨」を発行することを宣言する可能性が高いと多くのアナリストは考えているようです。
実際、インドなどは、露骨に脱ドルの姿勢を鮮明にしていまして、先日も、アラブ首長国連邦との原油とゴールドの決済を「ドルではなく、自国通貨のルピーでおこなった」ことをロイターが報じていました。
(報道)インドが、アラブ首長国連邦への原油とゴールドの決済をドルではなく自国通貨ルピーで行う(2023年8月15日)
西から経済制裁されているロシアはともかくとして、インドは、「脱ドル」に非常に積極的で、今年 3月には、「他国の銀行同士がインドルピーでの海外取引をする専用口座(ボストロ・アカウント) 」を開設し、早速、18カ国の銀行が、その口座を開設したことが報じられていました。
(記事) ドル支配の終わりへ: 世界18カ国の銀行が「インドルピーでの決済」専用のアカウントシステムに参加
地球の記録 2023年3月20日
上の記事に、その口座の開設が許可された銀行の国名を載せていますが、アジアやアフリカなどの国々などと共に、英国やドイツ、ニュージーランドなどの銀行も加わっていました。
ロシアの多国間決済システム「ミール」も機能していますし、もはや、いくつかの国にとって「ドルは完全に必要のない段階」に来ているようです。
BRICS に加盟を希望している国も増えていて、8月の BRICS 首脳会議の開催国である南アフリカの外務大臣は、
「BRICS 加盟への正式申請が、23カ国から提出されている」
と発表していました。
(翻訳記事)BRICSへの加盟を検討している国が「23カ国」に
BrainDead World 2023/08/08
具体的には、アルジェリア、アルゼンチン、バングラデシュ、バーレーン、ベラルーシ、ボリビア、ベネズエラ、ベトナム、キューバ、ホンジュラス、エジプト、インドネシア、イラン、カザフスタン、クウェート、モロッコ、ナイジェリア、パレスチナ、サウジアラビア、セネガル、タイ、UAE、エチオピア、となります。
■が現在のBRICS加盟国、■が加盟を申請している国
Silkroadbriefing, zerohedge.com
南アフリカの外務大臣は、「将来的には BRICS の加盟国が 50を超えると想定している」とも述べていました。
50カ国の想定はともかく、上の国々だけでも、穀物生産、原油などのエネルギー生産の大国がつらなっていて(そうじゃない国もありますが)、現在の「食糧危機の懸念」、「エネルギー危機の懸念」の中では、かなり威圧感のある国々です。
お米のことをいえば、世界輸出のベスト3(インド、タイ、ベトナム)が全部入っていますし。
多くの国が「ここにくっついていたほうが安全そう」と思うのも不思議ではなく思います。食糧安全保障は、「今後の世界で」国家運営の最も重要な要点ですので。
仮に、私が、所沢民主主義人民共和国の王様だったら(民主主義人民共和国に王様かよ)、こっちに寄り添う気がします。コメほしいですし(なんだよ)。
ただ…… BRICS の中では、実は中国が、わりと問題なのかもしれません。
現在の中国の経済の状況の悪化云々はともかくとしても、「実は中国は、非常にアメリカや西側に物資を依存している」ことが最近の研究でわかったんですよ。
少し前に、ウォールストリート・ジャーナルが、米国のシンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)の統計を報じていたもので、
> 中国が、ぜいたく品から自国産業に必要な原材料まで400以上の品目について、米国とその同盟国からの輸入に 70%以上依存していることが、貿易統計の新たな分析で分かった。
というものでした。
以下は、日本語版のウォールストリート・ジャーナルの記事のリンクです。
・中国の輸入依存、米・同盟国から400品目超(wsj 2023/08/10)
以下が表で、まあ、実際には、日本が一番依存されているのですけどね。
中国が米国とその同盟国から輸入する品目のうち依存度が 70%以上のものは 412もあるのだそうです。
アメリカの日常品の多くが中国への依存で成り立っていることはよく知られていることですが、中国のほうも、「かなりの必需品を西側に依存している」ようです。
つまり、現在のままの中国では、「そう簡単にドルからは離脱できない」ということも言えそうです。
BRICS から中国を追い出しちゃえば解決する話ですけどね(そりゃ多分できねえよ)。
ともかく、8月22日に宣言されると予測されている南アフリカでの「ダーバン宣言」がどんなものになるのか、市場関係者やアナリストたちは非常に注目しているようです。
今回は、そのことにふれていた……まあ、またゴールド関係の企業の記事なのですが、この「完全な脱ドル化へ向かう理由」が、わりとわかりやすく書かれていたようにも思いましたので、ご紹介させていただきます。
繰り返しますが、8月22日になるまでは、実際にはどんな宣言となるのかはわからないですし、どんな宣言が出されたとしても、急激に何かが変わるということではないと思います。緩慢に変わっていくのだと思います。ただ、進行は緩慢ではあっても、これまでの世界の通貨システムがいずれは根本的に変わる可能性が高そうです。
BRICSは8月22日のダーバン合意で何を計画しているのか
What Are the BRICS Planning With the August 22nd Durban Accords?
BIRCH GOLD GROUP 2023/07/29
BRICS 諸国についての私たちの最初の説明では、彼ら BRICS の決定がなぜ世界経済に影響を与えるのかを理解した。しかし、なぜ彼らの決定が私たちに影響を与えるのだろうか?
8月22日のダーバン合意が意味を成す前に、それを理解する必要がある。
世界貿易は米ドルで成り立っている
第二次世界大戦後、米ドルは世界準備通貨としての役割を享受してきた。これらの意味は次のとおりだ。
世界中で、相互に取引を行う企業や国家が共通の通貨を共有していない場合には、米ドルが使用される。チリの銅鉱山が大量の原鉱石をカナダの精錬業者に販売するとき、彼らは米ドルで請求書を請求し、米ドルで支払われる。
ほとんどの国には共通の通貨がない(例外はユーロ圏)。したがって、国際貿易におけるドルの使用量は単純に膨大であり、世界全体の約 85%に相当している。
つまり、世界はドルに依存してビジネスを行っている。それは私たちにとってとても大きなことだ。それは、例えば、赤字支出や新たに印刷された貨幣は常に世界のどこかに居場所があることを意味する。
単純に、世界にはドルが必要だ。
「ドルは私たちの通貨ですが、これはあなた方の問題なのです」
1971年、ニクソン大統領はドルと金(ゴールド)の兌換を廃止した。
控えめに言っても、世界の残りの国々は狂気のように混乱した。金本位制はインフレを防ぐはずだったが、実際はそうはならなかった(主な理由は、1933年以来アメリカ国民がドルと金を交換することを禁止されていたため)。
金本位制がなかったら、米国はどうやってドルの価値を保証するつもりだったのだろう? ローマでの G-10会議で同僚らからこの質問にさらされたとき、ジョン・コナリー米国財務長官は次のように宣言して聴衆を驚かせた。
「ドルは私たちの通貨ですが、それはあなた方の問題なのです」
紙幣の印刷に制限がなくなったため、米国はさらに多くのドルを稼ぎ続けた…。以下のグラフを見てほしい。青い線は総ドル(M2、マネー供給量の尺度)を示し、赤い線は購買力を示す。米国の購買力は数十年間で 86.6% 減少した。
したがって、現在のシステムは、ドルとともにインフレも輸出している。
コナリー米国財務長官は「それは、あなたがたの問題だ」と言ったが、このことを意味している。
残りの世界は過去 50年間それを吸い取らされてきただけだが、なぜ今は状況が異なるのだろうか。
ドルの武器化
戦争への参加は、それが「平和維持活動」として売り出されても、「警察活動」として売り出されても、どちらでも破滅的な費用がかかる。
したがって、米国は歴史的に、米国の利益に沿わない行動を思いとどまらせる「非動的」方法として金融制裁を利用している。
上で説明したように、世界はドルを持たなければならないという理由だけで、誰がドルを管理するかは世界経済にも大きな影響を与える。米国が他国に対して金融制裁を発動することを「ドルの武器化」と呼んでいる。
これは何十年も続いている。
たとえば、キューバは 60年以上も制裁されている。イランは 40年以上。ある意味、ドルの武器化は米国にとって日常的なことなので、2022年に米国が再びそれを行ったのは驚くべきことではなかった。
ウクライナ侵攻に応じて、ホワイトハウスはロシア中央銀行の 3000億ドル(約 43兆円)の米ドル資産を凍結した。ジョー・バイデンのペンの一筆で、ロシア中央銀行の 3000億ドルは完全に無価値になった。さらに、ロシア経済は国際送金システムである SWIFT から締め出された。
この「衝撃と畏怖の念」を伴う経済戦争の結果は圧倒的なものだった。
ロシア経済は崩壊することはなかったが、ドルの代わりに人民元やルピー、あるいは金(ゴールド)で支払いを受けて通常通り事業を継続した。
他の結果もある。ブルームバーグのコラムニストであるマット・レヴィン氏は 2022年3月に次のように書いている。
しかし、米国とその同盟国がこのシステムから(ロシアなどの特定の)国を追い出すたびに、それらの国は貿易に使用する他の方法を探しに行くだろう。
そして、他の国、つまり主要ネットワークから切り離されてはいないが、必ずしもあらゆる点で米国と連携しているわけではない国々は、主要ネットワークの魅力が少し劣るように見えると考えている。
…もう一つ、もしあなたが米国と同盟を結んでいないなら、いつか自分自身がそのシステムから追い出されるのではないかと心配するかもしれない。
そのため、代替システムが必要になる前に、今すぐ代替システムを試してみることに興味を持つようになるはずだ。したがって、ロシアをドルベースの国際金融システムから追い出すことで、時間の経過とともに、そのシステムが置き換えられる可能性が高くなっている。…他の何かによって。
…システムは力を行使するたびに弱体化するものだ。
それが、8月22日のダーバン合意の内容、つまり「代替のシステムの登場」だ。
8月22日は「通常」の終わりの始まりとなるかもしれない
BRICS 諸国を無視できないことはわかった。5つの中核メンバーのうち 2 か国(ロシアと中国)は、歴史的に米国の地政学的優位性のライバルであることに注意してほしい。
両国は他国と積極的に「二国間貿易協定」を結んでいる。つまり、ドルを仲介者として使うのではなく、自国通貨で相互に売買できるということだ。
しかし、世界基軸通貨が存在する理由は、国際貿易の煩雑さを軽減するためでもある。
したがって、ダーバン合意は、おそらく 8月22日に発表される予定で、商品(コモディティ)を裏付けとした新しい国際通貨を開始するための合意となるはずだ。
「コモディティによる裏付け」は重要だ。なぜなら、それが新しい通貨の信頼性を得る最も簡単な方法だからだ。考えてみてほしい – 現在存在する通貨で、希望以外のものから価値を引き出しているものは何だろうか? (※ 実質的な価値の裏付けのある通貨はあるだろうか? という意味だと思います)
この新しい BRICS 通貨により、参加国は米国の金融制裁を回避し、ドルインフレの問題を回避することができる。
当初、私の情報筋は、BRICS 通貨は、石油、工業用金属、穀物などの BRICS 諸国によって生産および取引される商品、またはより可能性の高い金(ゴールド)によって裏付けられる可能性があることを示唆していた。
新通貨を金で裏付けるのは BRICS にとって明らかな動きだろう。中国とロシアはそれぞれ、世界第 1位と第 2位の金採掘国だ(南アフリカとブラジルはそれぞれ第 13 位と第 14 位)。中国とロシアはすでにかなりの公的金準備高を持っている(世界で 6位と 7位)。
本質的に、以下がダーバン合意の内容となると見られる。
・米国の世界的な金融支配に代わる選択肢
・兵器化された米ドルを回避する方法
・過剰なドル印刷によるインフレを回避する方法
・すでに締結されている二国間貿易協定を簡素化および合理化する手段
ダーバン合意は、米ドルに代わる最初の実行可能で有用な代替手段を意味するかもしれない。
だからこそ、これは非常に大きな問題なのだ。
なお、ロシア国営メディア RT は、ダーバン合意の目的が「金に裏付けされた新しい取引通貨」を開始することであることを認めている。