音楽を感じて、久しぶりに面食らった。
演奏が終わった瞬間、豊橋・横山農園のおいしいメロンを送って
あげると約束してしまった。金もないのにしまったことをした。
北海道の釧路からやってきたほんとうの音楽人、奈良裕之さんが
その人だ。
奈良さんの物腰、語り口はその激しい演奏からは想像できないほ
ど精妙で、フィンドホーンのフラワーエッセンスもびっくり仰天だ。口
琴を奏でる顔写真は野人を印象づけるが、実際あって話してみる
と、とても穏やかな乳白のオレンジ色オーラの持ち主で文字通り、
あいた口がふさがらなくなるだろう。
5月19日に足助の平勝寺ではじめて奈良さんの演奏を聴いて以来、
すっかりファンになってしまった。それで頼まれもしないのに、2
6日・27日の演奏に友だちを連行した。合計で3回、奈良さんの
演奏に心を委ねる機会を得たのだが、3回が3回とも味わいの響く
ところが違った。なによりも、世にも激しい太鼓の演奏がしずまり、
聴衆の拍手も鳴り止んだとき、奈良さんがポツリと一言、
「頭が・・・カラッポです。」
と心から話したのにいたく感動した。それだけの意識で仕事ができ
る人間は、そーはいないと日ごろから思っていたから。頭がカラッ
ポになって、演奏をしているということは、お客さんに「サービス」
を提供しているという頑ななプロ意識から解放されているというこ
とだから。魂の深いところから湧き出でる音楽に身も心も任せて演
奏しているからこそ、「はくしゅ・・。」と小声でつぶやいただけ
で、聴衆からの拍手がドッと沸きあがる。こんなにも自然で美しい
ステージはいまだかつて体験したことがなかった僕は、ほんとうに
心底から感動したせいか、自分が救われたような感覚をいただいた。
奈良さんは、年間200回の演奏を全国津々浦々で行ってみえる。
事務所はひとり。自家用車であるセドリックステーションワゴンに
何十種類という民族楽器を積んで、韓国へもイタリアへも旅立つ。
40歳にして、トランペットを手放し、民族楽器を手にした、筋肉
年齢20代の男、奈良裕之46歳。
別れ際、奈良さんに聞いてみた。
「著作権についてどう思いますか?」
そしたら、奈良さんはこう答えた。
「JASRACとは関わりたくないですね。自然がいちばんです。」
不労所得でもうけようと考えない。音楽の原点である場を共有し、
心を共有することを大切にする奈良さんの生きる姿勢がひしひしと
伝わってきた。
ぜひ、みなさんに奈良さんの演奏をきいてもらいたい。
T
※JASRAC=社団法人日本音楽著作権協会のこと。