「市丸海軍少将の手紙」 奥の院通信から R3 11/21

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先の大戦で、硫黄島最後の突撃に当たって、市丸利之介中将(戦死で中将に昇進)は、先頭将校の腹に、ルーズベルト大統領宛の手紙を巻かせた。どんなに出血しても、血がにじんで読めなくなるようなことのないように、しっかり油紙に包んで、腹に堅く巻かせた。
 幸い、この手紙はアメリカに届いて、数日後にはニューヨークタイムズに掲載された。記事は日本を揶揄する内容になっていたようであるが、とにかく全文が掲載されたという。ということは、ルーズベルト大統領も読んだはずである(彼はこの直後、4月12日に死去している)。この手紙の中に、日本人のこの大戦に対する思いは完璧に表現されている。長くて昔の文章であるから、少々読みづらいかも知れないが、一読をお願いしたい。(若干注釈を加えた)。

ルーズベルトに与える書 昭和20年(1945年)3月17日

 日本海軍市丸海軍少将、書を「フランクリン・ルーズベルト」君に致す。 我、今、我が戦いを終わるに当り、一言、貴下に告ぐるところあらんとす。
 日本が「ペルリー」提督の下田入港を機とし、広く世界と国交を結ぶに至りしより約百年。この間、日本は国歩艱難(国の歩みが困難で苦労する)を極め、自ら慾せざるに拘らず、日清、日露、第一次欧州大戦、満州事変、支那事変を経て、不幸貴国と干戈(かんか)を交ふるに至れり(戦うことになった)。

 これを以って日本を目するに、或は好戦国民を以ってし、或は黄禍を以って讒誣し(中傷すること)、或は以て軍閥の専断となす。思はざるの甚きものと言はざるべからず。
 貴下は真珠湾の不意打ちを以って、対日戦争唯一宣伝資料となすといえども、日本をしてその自滅より免るるため、この挙に出づる外なき窮境(窮地)に迄追い詰めたる諸種の情勢は、貴下の最もよく熟知しある所と思考す。
 畏くも日本天皇は、皇祖皇宗建国の大詔に明なる如く、養正(正義)、重暉(じゆうき)(明智)、積慶(仁慈)を三綱(人道の大本となる道)とする、八紘一宇の文字により表現せらるる皇謨(天子の計画)に基き、地球上のあらゆる人類はその分に従い、その郷土において、その生を享有せしめ、以って恒久的世界平和の確立を唯一念願とせらるるに外ならず。これ、かつては明治天皇が詠われた御製『四方の海 皆はらからと思ふ世に など波風の立ちさわぐらむ』でも分かる。
 なお、明治天皇のこの御製(日露戦争中御製)は、貴下の叔父「テオドル・ルーズベルト」閣下の感嘆を惹きたる所にして、貴下もまた、熟知の事実なるべし。
 我等日本人は各階級あり、各種の職業に従事すといえども、畢竟(つまるところ)その職業を通じ、この皇謨、即ち天業を翼賛(力添えをすること)せんとするに外ならず。
 我等軍人もまた干戈を以て、天業恢弘(恢弘とは押し広めること)を奉承するに外ならず。
 我等今、物量をたのめる貴下空軍の爆撃及艦砲射撃の下、外形的には退嬰(しりぞけ守る)の己むなきに至れるも、精神的にはいよいよ豊富にして、心地ますます明朗を覚え、歓喜を禁ずる能はざるものあり。
 これ、天業翼賛の信念に燃ゆる日本臣民の共通の心理なるも、貴下及チャーチル君等の理解に苦むところならん。
 今ここに、卿等(大臣たち ルーズベルトとチャーチルを指す)の精神的貧弱を憐み、以下一言以って、少く誨える所あらんとす。
 卿等のなす所を以て見れば、白人殊にアングロ・サクソンを以て世界の利益を壟断(独占すること)せんとし、有色人種を以って、その野望の前に奴隷化せんとするに外ならず。
 これが為、奸策(悪がしこい企て)を以て有色人種を瞞着(だますこと)し、いわゆる悪意の善政を以って、我等を喪心(本心を失うこと)無力化せしめんとす。 近世に至り、日本が卿等の野望に抗し、有色人種、ことに東洋民族をして、卿等の束縛より解放せんと試みるや、卿等は毫も(全く)日本の真意を理解せんと努むることなく、ひたすら卿等の為の有害なる存在となし、かつての友邦を目(もく)するに仇敵野蛮人を以ってし、公々然として日本人種の絶滅を呼号するに至る。これあに神意に叶うものならんや。
大東亜戦争により、いわゆる大東亜共栄圏のなるや、所在各民族は、我が善政を謳歌し、卿等が今を破壊することなくんば、全世界に亘(わた)る恒久的平和の招来、決して遠きに非ず。
 卿等は、既に充分なる繁栄にも満足することなく、数百年来の卿等の搾取より免れんとする是等(これら)憐むべき人類の希望の芽を、何が故に嫩葉(若葉)において摘み取らんとするや。
 ただ、東洋の物を東洋に帰すに過ぎざるに非ずや。卿等、何すれぞ斯くの如く貪慾にして且つ狭量なる。
 大東亜共栄圏の存在は、毫も卿等の存在を脅威せず。かえって世界平和の一翼として、世界人類の安寧幸福を保障するものにして、日本国天皇の真意は、全くこの外(ほか)に出づるなきを理解するの雅量あらんことを希望して止まざるものなり。
 ひるがえって欧州の事情を観察するも、又相互無理解に基く人類闘争の、如何に悲惨なるかを痛嘆せざるを得ず。
 今ヒットラー総統の行動の是非を云為(うんぬん)するを慎むも、彼の第二次欧州大戦開戦の原因が第一次大戦終結に際し、その開戦の責任の一切を敗戦国ドイツに帰し、その正当なる存在を、極度に圧迫せんとしたる卿等先輩の処置に対する反発に外ならざりしを、観過せざるを要す。
卿等の善戦により、克くヒットラー総統をたおすを得るとするも、如何にしてスターリンを首領とするソビエトロシアと協調せんとするや。
 およそ世界を以って強者の独専となさんとせば、永久に闘争を繰り返し、遂に世界人類に安寧幸福の日なからん。
 卿等今、世界制覇の野望一応、将(まさ)に成らんとす。卿等の得意思ふべし。然れども、君が先輩ウイルソン大統領は、その得意の絶頂において失脚せり。願くば本職(市丸)言外の意を汲んで其の轍を踏む勿(なか)れ。