致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 13 「愛語の力」 

酒井 大岳 曹洞宗長徳寺住職

 私が県立女子校の書道講師として奉職間もない頃、小林文瑞という大先輩の先生がいました。小林先生は私のように僧籍を持ち、西田哲学や仏教思想に精通していました。百九十センチ近い大柄な方でしたが、一緒に食事をしていた時にこうおっしゃるのです。「酒井先生、「般若心経」というお経があるでしょう。きょうは一つ私にそれを説いてください」「それは無理です。読めと言われればすぐに読めますが、とても説くことなんか」「すると一瞬先生の表情が変わり、「馬鹿者!」と頭ごなしに私を怒鳴られるではないですか。「あなたは今日、私の隣の教室で授業をやっていたね。一人休んでいた子がいたでしょう。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 14 「金メダル獲得の原動力」

古賀 稔彦 柔道家

 日本に帰国すると、私を取り巻く環境が驚くほど一変していました。成田空港から出発するまではマスコミで散々取り上げられ、「頑張れ頑張れ」と声援を受けていた私が、一点して誹謗中傷の的となったのです。「古賀は世界では通用しない」「あいつの柔道はもう終わった」など、なぜそんなことを言われなければいけないのかとただただ憤慨するばかりでした。そして気づけば、私の周りからは潮が引くように誰もいなくなったのです。人間なんて誰も信用できない。この時、私は人間不信に陥ってもおかしくないくらい激しく気持ちが落ち込み、とにかく人目につくのが怖くて、自分の部屋に閉じこもりました。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 15 「人物を知る五つの標準」

森 信三 哲学者

 人を知る標準としては、第一には、それがいかなる人を師匠としているか、ということであり、第二には、その人がいかなることをもって、自分の一生の目標としているかということであり、第三には、その人が今日までいかなることをして来たかということ、すなわちその人の今日までの経歴であります。

 そして第四には、その人の愛読書がいかなるものかということであり、そして最後がその人の友人がいかんということであります。
 大よそ以上五つの点を調べたならば、その人がいかなる人間であり、将来いかなる方向に向かって進むかという事も、大体見当はつくと言えましょう。
 しかしながら、翻って考えるに、今申したようなもろもろの点は、結局は一つの根本に帰するかと思うのです。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 16 「顔の化粧ではなく、心の化粧を」

渡辺 和子 ノートルダム清心学園 理事長

 人間の進むべき道というようなことは、難しくてよくわかりませんけれども、とにかくまずは自信を取り戻すことですね。しかもそれは正しい意味での人間しか持たないぬくもり、やさしさ、強さであり、自分と闘うことができ、自分の欲望にブレーキをかけることができるということへの信頼です。
 例えば、私はいま学生たちに、「面倒だからしましょうね」ということを言ってるんです。面倒だからする。そういう心を学生たちはちゃんと持っています。それは強さだと思うんです。そういう、人間にだけ神様がくださった、神の似姿として作られた、人間にのみ授けられた人間のやさしさと強さ。かけがえのない、常に神様に愛されている自分としての自信
。そういうものを取り戻して生きて行かないと、科学技術の発達するままのこれからの時代に、人間の本当の姿が失われてしまうのではないかと思います。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 17 「笑顔に咲いた天の花」

浦田 理恵 ゴールボール女子日本代表

 目が見えなくなったのは、徐々に徐々に、じゃなくて、ニ十歳のころにガクンと来たんですね。左の目が急に見えなくなって、すぐに右の目、とスピードが速かった。小学校の先生になるための専門学校に通っていた時で、卒業をまじかに控えた三か月前の出来事でした。これまでできていたことができなくなるのが本当に怖かったです。
 一年半くらいは一人暮らしのアパートから出られず、両親にも友達にも打ち明けられないままでした。
もう本当に凄くきつくて、お先真っ暗で、見えないのなら何もできないし、できないんだったら別に自分がいる意味なんてないと考えたりもしました。
 二十二歳のお正月の頃、もう自分ではどうにも抱えきれなくって、このまま死んでしまうぐらいなら親に言おうと思ったんです。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 18 「真っ赤になって怒っていた富士山」

芹沢光治良 作家

 その時代ってのは、日本の農村も漁村も貧しかったわけですからね、子どもだけは、貧乏人の子だくさんというように、多かったでしょう。子供なんてのは「ごくつぶし」っていわれてたですからね、僕が小学校に行くようになってもね、毎年十二月末から三月上旬まで西風が吹くんですが、西風が吹くと漁師は出漁できないんですね。
 そうするともう、お弁当が持っていけない子供たちは学校へ行って、お昼の鈴が鳴るとね、井戸端へ出て、水を飲んでね、我慢した。病気になったからといって医者にもかけてくれないんですな。「腹を干す」といって絶食させて寝かせておくんです。そのまま死んでも「口減らし」ができたと家族はほっとした時代です。そんな状態でしたからね、中学なんて行くことが出来なかったわけです。本当ならね。
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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 19 「虐待を受けている少年の悲痛な叫び」

西舘 好子 NPO法人日本ららばい協会理事長

 僕の声を聞いて
「おかあさん ぶってもけってもかまわないから 僕を嫌いにならないで。
 おかあさん おねがいだから僕の目をちゃんと見て。
 おかあさん お前を生まなければよかったなんて言わないで僕はちゃんと生きているんだから。おかあさん やさしくなくてもいいから、僕を触って、おかあさん 赤ちゃんのとき抱いてくれたように抱いて。おかあさん 僕の話にうなづいてくれないかなあ。
 つらい、悲しい、もうダメ、お母さんの言葉ってそれしかないの。赤い爪魔女みたい。
 ゴム手袋のお台所、お部屋のあちこちにある化粧品、僕の家のお母さんのにおい、僕の入れない世界で満ちている。おかあさん お母さんのにおいが欲しい、優しい懐かしいにおいが。
 おかあさん お願いだから手をつなごう、僕より先に歩いて行かないで。おかあさん お願いだから一緒に歌おう、カラオケ屋じゃないよお家でだよ。おかあさん 500円玉おいてくれるより、おにぎり一個の方がうれしいのに。
 おかあさん 笑わなくなったね、僕一日何度おかあさんが笑うかノートにつけているの」

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致知出版社 一日一話 読めば心が熱くなる・・ 第二弾 20 「わが身に降りかかることはすべてこれ天意」

寺田 一清 社団法人実践人の家常務理事

 昭和四十五年、多年入院中の奥様のご逝去に引き続き、その翌々年、ご長男の急逝という予期せぬ事態が勃発しました。先生は齢七十七歳でした。そして「逝きしわが子への身の償いとして」単身、倒壊寸前の廃屋同然の貧しい一件屋に赦されて入居せられるという次第でした。これが先生の生涯における、最大最深の悲痛事ではなかったかと思われます。
 そして玄米食とみそ汁を基本とした独居自炊の生活が始まりました。果物屋でもらってきた木星リンゴ箱を食堂にし、先生手づくりの一汁一菜の簡素な食事を共にお相伴したことがありましたが、まことに”隠者の夕暮れ”を感じ、私の方がかえって憂愁に閉ざされがちでした。
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